過払い金請求をした際に貸金業者と債務者側でよく争点になるのが、一度借金を完済した後同じ貸金業者から再び借金をしたケースです。
では、なぜこのようなケースでは裁判で争われるのでしょうか?
この記事では、
など、取引の分断と一連について解説します。
この記事を読めば、どのようなケースで過払い金を多く取り戻せるのかわかるようになります。
借金を完済後、再び同じ貸金業者で借金をしたケースでは、過払い金請求をした際に貸金業者と訴訟で争う可能性があります。
争点になるのは、何度も取引をした場合に以下のどちらの取引で扱うのかという点です。
分断 | それぞれの取引は別の取引として考える |
---|---|
一連 | 1回の取引が2回目以降の取引中も続いていると考える |
取引の分断とは一つ一つの取引を別のものとして扱う考え方です。
同じ貸金業者から何度も借金をすると、完済後と2回目の取引開始までの間は取引をしていません。
そのため、ほとんどの貸金業者は「取引をしていない期間があるのだから2つの取引は別のものとして扱うべき」と主張するのです。
一方で、取引をしていない期間があったとしても、最初の取引が途切れずに続いているものと判断する考え方もあり、取引の一連と呼びます。
何度も同じ貸金業者から借金をしたケースで司法書士や弁護士に依頼をすれば、取引の一連性を主張するケースがほとんどです。
分断 | 一連 | |
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過払い金の時効 | 各取引の完済日から数える | すべての取引の最後の完済日から起算 |
戻ってくる過払い金 | 少ない傾向がある | 多い傾向がある |
何度も借金をしている場合に貸金業者と債務者側の言い分が異なる理由は以下の2つにかかわるからです。
つまり、貸金業者にとっては、分断・一連のどちらになるかで返還する金額にも影響があります。
そのため、過払い金を減らしたい貸金業者と支払いすぎた利息を多く取り戻したい債務者側で争われるのです。
では、具体的にどのくらい影響があるのか解説します。
過払い金の時効は民法第166条により完済日から10年と決まっています。
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用元:民法第166条第2項e-Gov
令和2年の民法改正により5年になるケースもありますが、令和2年4月1日以前に完済している場合は10年です。
たとえば、第1取引の完済日が平成15年、第2取引の完済日が平成25年のケースで考えてみましょう。
2つの取引が分断されている場合、時効を数え始めるのは平成15年の完済日からです。
時効は10年なので平成25年を過ぎると最初の取引の過払い金請求ができなくなり、第2取引の過払い金しか取り戻せなくなります。
他方、一連と認められると時効を数え始めるのは平成25年からです。そのため、令和5年までならすべての取引期間の過払い金を取り戻せます。
このように取引の分断および一連性は、時効を数え始める日にも大きな影響を与えるのです。
なお、過払い金の時効については、過払い金の消滅時効と時効後の対応方法でも解説しているのでぜひ参考にしてみてください。
取引の分断や一連性は戻ってくる過払い金にも関係があります。まず分断と一連では過払い金の計算方法が異なります。
分断では過払い金の計算は個別の取引ごとに行わなければなりません。そのため、1回目の取引で発生した過払い金を2回目以降の取引の元金返済に充てることは不可能です。
他方、一連の場合は最初の取引で発生した過払い金を2回目以降の取引の元金返済に充てられます。
その結果、元金が減少するので支払う利息も減り、取り戻せる過払い金も多くなりやすいのです。
取引の分断や一連性は過払い金にも大きな影響があり、裁判でもたびた争われてきました。
何度も同じ貸金業者から借金をしたとしても裁判なしで取引の一連性が認められることはありません。
なぜなら、ほとんどの貸金業者が取引は分断されていると主張するからです。
裁判で争点になるポイントはいくつかありますが、まずは借金をする際に貸金業者と基本契約書を毎回結んでいるのかが重要です。
それぞれの状況により、裁判でどのように判断されるのか解説します。
第1取引の際には基本契約書を結んだものの、完済後新たに借金をした際に基本契約書のやり取りをしていないケースもあります。
このようなケースでは2回目以降の取引も最初の基本契約書にもとづいて取引をしたと想定されるため、一連の取引として認められやすいです。
平成19年6月7日の最高裁判決でも貸金業者が同一の基本契約にもとづいて債務者にお金を貸していたケースで一連の取引として認められています。
その理由は、基本契約による借金の返済が各貸し付けごとではなく、借金全体に対して行われると想定されたからです。
同一の貸主と借主との間でカードを利用して継続的に金銭の貸付けとその返済が繰り返されることを予定した基本契約が締結されており,同契約には,毎月の返済額は前月における借入金債務の残額の合計を基準とする一定額に定められ,利息は前月の支払日の返済後の残元金の合計に対する当該支払日の翌日から当月の支払日までの期間に応じて計算するなどの条項があって,これに基づく債務の弁済が借入金の全体に対して行われるものと解されるという事情の下においては,上記基本契約は,同契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。
引用元:最高裁判所判例集|裁判所
ただし、借金を完済後、次の借り入れを行うまでの期間(空白期間)があまりにも長ければ、別個の取引として判断される可能性があります。
完済後に同じ貸金業者から再び借金をした際に新たな基本契約書を結ぶケースでも、同一の取引と認められることがあります。
基本契約書を取引ごとに結んだ際に一連の取引として認められるためのポイントは、平成20年1月18日の最高裁判決で明示されました。
借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である。
引用元:最高裁判所判例集|裁判所
特に以下の3つのポイントを満たしていれば、一連の取引として認められやすくなります。
ただし、これらのポイントをいくつか満たしていても、借金の空白期間が1年を超えるケースでは取引の一連性が認められない判決もあるので注意が必要です。
なお、取引が3回以上ある場合は第1取引と第2取引、第2取引と第3取引についてそれぞれ一連なのか分断なのか判断されます。
平成19年7月19日に最高裁では、基本契約を締結せずに何度も同じ貸金業者から借金をしたケースについて判断を下しました。
この判決では、貸し付けが長年にわたり何度も行われている場合、2回目以降の取引は最初の取引からの切り替えや借り増しを行うことを想定していると判断しています。
そのため、最初の取引で発生した過払い金を2回目以降の借り入れの元金返済に充てられるのです。
1度の貸付けを除き,従前の貸付けの切替え及び貸増しとして長年にわたり反復継続して行われており,その1度の貸付けも,前回の返済から期間的に接着し,前後の貸付けと同様の方法と貸付条件で行われたものであり,上記各貸付けは1個の連続した貸付取引と解すべきものであるという判示の事情の下においては,各貸付けに係る金銭消費貸借契約は,各貸付けに基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,当該過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。
引用元:最高裁判所判例集|裁判所
このように取引時の基本契約書を結んでいるのか結んでいないのかにかかわらず、一連の取引として認められる可能性があります。
ただし、空白期間が長いケースでは分断された取引と判断されるケースもあるので、必ず一連の取引が認められるわけではありません。
過払い金請求をめぐる裁判では取引の分断および一連について争われるケースが多々あります。では実際にどのような判例があったのか解説します。
平成29年11月22日に岐阜地裁で争われた判決では、債務者の言い分が通り2つの取引が一連と認められました。
契約 | 取引期間 |
---|---|
1回目(6回の借り入れ) | 平成17年12月〜平成23年6月 |
2回目(6回の借り入れ) | 平成24年8月〜平成28年2月 |
この判決では、1回目の取引と2回目の取引をする際の内容が以下の点で同じであることが確認されました。
その上で以下の事実があるため一連と認められたのです。
このように取引ごとに結んだ基本契約書の内容が変わっていないケースや空白期間が1年前後のケースでは、一連であることが認められやすいです。
平成30年9月18日に行われた福岡地裁の判例では、3つの契約が一連の取引として認められたケースです。
契約 | 取引期間 |
---|---|
1回目 | 昭和59年5月〜平成3年12月 |
2回目 | 平成5年7月〜平成13年9月※ |
3回目 | 平成15年1月〜平成28年11月 |
※契約締結日は平成4年8月
まず、1回目の取引と2回目の取引について以下のような理由から一連として認められました。
1回目の取引と2回目の取引間では、多くの点で一連の取引が認められやすいポイントが揃っていたことになります。
また、2回目の取引と3回目の取引についても以下の理由から一連の取引と認められました。
完済後に3回目の取引をはじめるまでの間の空白期間は1年4か月あるものの、2回目の取引期間は8年以上もありました。
さらに、完済後の1年4か月後には同じ貸金業者から借金をしていることも一連と認められた理由です。
契約 | 取引期間 |
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1回目 | 平成2年9月〜平成7年7月 |
2回目 | 平成10年6月〜平成17年7月 |
平成20年1月18日の最高裁判決では、最初の完済から約3年後に2度目の借り入れを行ったケースについて、以下の理由で取引の一連性を認めませんでした。
したがって、借金をする際に結んだ基本契約の内容が異なったり空白期間が長かったりすれば、取引は分断されていると考えられることもあるのです。
平成23年7月14日の最高裁判決は、以下の3つの取引について発生した過払い金を他の取引の元金返済に充てられるかどうか争われた判例です。
1度目の空白期間 | 約1年6か月 |
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2度目の空白期間 | 約2年2か月 |
3度目の空白期間 | 約2年4か月 |
判決では、空白期間が長期間に及んでいるにもかかわらず、自動更新を継続する条項があるという理由で過払い金充当合意を認めた高裁の判断は法令違反があるとしました。
そのため、1年以上の空白期間があるケースでは、取引の一連性が認められにくくなっています。
基本契約1に基づく最終の弁済から基本契約2に基づく最初の貸付け,基本契約2に基づく最終の弁済から基本契約3に基づく最初の貸付け及び基本契約3に基づく最終の弁済から基本契約4に基づく最初の貸付けまで,それぞれ約1年6か月,約2年2か月及び約2年4か月の期間があるにもかかわらず,基本契約1ないし3に本件自動継続条項が置かれているこ
とから,これらの期間を考慮することなく,基本契約1ないし4に基づく取引は事実上1個の連続した取引であり,本件過払金充当合意が存在するとしているのであるから,この原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
引用元:最高裁判所判例集|裁判所
貸金業者と複数回取引をした際に、それぞれの取引が分断なのか一連なのかについてはいまだに裁判で争点になります。
そのため、司法書士や弁護士に依頼しなければ、交渉や裁判もうまくいかず貸金業者側の言い分が通りやすくなるでしょう。
他方、司法書士や弁護士に依頼をすれば、裁判になったケースでも取引の一連が認められることもあり、多くの過払い金を取り戻せるかもしれません。
さらに、手続きや裁判の代行もするので、精神的に安定した気持ちで過払い金が戻ってくるまで待つことができます。
借金を完済後、再び同じ貸金業者からお金を借りると、ほとんどの貸金業者が本格的に争ってきます。
また、状況により取引の一連性が認められるかどうか微妙なケースもあるので、自分で手続きを進めて過払い金を取り戻すのは困難です。
司法書士法人杉山事務所では、過払い金の相談や着手金無料で承っています。お気軽にお問い合わせください。
大学卒業後就職するも社会貢献できる仕事に就きたいと考え、法律職を志し、司法書士試験合格。合格後、大阪市内の事務所で経験を積み、難波にて開業。
杉山事務所では全国から月3,000件を超える過払い・借金問題に関する相談をいただいております。債務整理や過払い金請求の実績豊富な司法書士が多数在籍し、月5億円以上の過払い金を取り戻しています。